骨軟部腫瘍クリニックが扱う代表的な疾患について
1 骨肉腫
我々が扱う原発悪性腫瘍のことを肉腫(sarcoma:サルコーマ)と呼びますが、骨肉腫はその代表疾患です。“ほねにできる肉腫だから骨肉腫”と誤解されることが多いのですが、それは正しくありません。顕微鏡で組織を観察したときに、腫瘍組織のなかに未分化な骨組織(オステオイド)が形成されている腫瘍のことを骨肉腫と定義しています。
10代~30代に多く、膝周辺(大腿骨遠位や脛骨近位)、肩にちかい腕の骨(上腕骨近位)に好発します。きっかけとして患部の腫れや、痛みといった症状で気付かれることが多いです。X線検査では腫瘍によって骨が破壊されている様子や、その他骨肉腫に特徴的な所見を見ることができますが、画像検査のみで診断を確定することはできません。診断を確定するためには、生検(実際に腫瘍の組織を切り取り、顕微鏡を用いた病理学的検査などを行う)が必要なことがほとんどです。
骨肉腫の診断が確定した後、術前補助化学療法から手術、さらには術後補助化学療法と治療をすすめていきます。化学療法はMAP療法と呼ばれ、MTX(メトトレキサート)大量療法とADR+CDDP(アドリアシン+シスプラチン)療法を交代で施行します。
手術は広範切除(#2)ですが、現在では四肢の切断など機能を大きく損なうことをできるだけ避けるように手術を行う方法が主流です。骨そのものを大きく切除する必要があるため、通常の人工関節よりも大きい腫瘍用人工関節による再建(図1)が一般的に行われていますが、これも生活の質や四肢の機能をできるだけ温存する手術を目指すためです。
これら様々な治療を組み合わせて行うことで、現在骨肉腫の5年生存率は70%を超えると言われており、以前の様な不治の病のイメージは払拭されています。
(#2)広範切除 腫瘍の組織を露出させないように、腫瘍周辺の健常な組織の部分で覆われたまま切除する術式です。健常な部分の切除を必要とするため筋肉、血管、神経などを一緒に切除しなくてはならないことも多く、ほとんどの場合四肢機能の低下を伴います。また、広い範囲の皮膚を切除する必要がある場合、手術の創を閉じるために植皮などを要することもあります。
広範切除を行わず、腫瘍を包む皮膜の部分で切除し、健常組織はなるべく温存する切除方法は辺縁切除といい、良性腫瘍、悪性腫瘍の一部に対し行います。
図1:右大腿骨遠位骨肉腫(単純X線画像)/広範切除検体/腫瘍用人工膝関節にて再建(単純X線画像)
2 脂肪性腫瘍
良性の脂肪腫、中間悪性の異形脂肪腫様腫瘍、悪性の脂肪肉腫に分類されています。 良性の脂肪腫、中間悪性の異形脂肪腫様腫瘍とも皮下脂肪の中や筋肉と筋肉の間、筋肉そのものの内部などに発生し、軟部腫瘍としては一番頻度の高い腫瘍です。
治療としてはこの両者とも辺縁切除を行い、周辺の健常組織を含めて大きく切除することは少ないです。悪性の脂肪肉腫は病状に合わせ化学療法や放射線治療を組み合わせて治療を行います。
3 転移性(骨)腫瘍
すでに他の悪性腫瘍(原発巣)があり、その腫瘍が転移しているケースです。多くが骨に転移し、その部分の骨を破壊するため痛みや病的骨折(#3)、を引き起こします。脊椎の転移性腫瘍では脊髄神経の圧迫による痛みや、麻痺などを呈します。
骨に転移しやすいがんとしては肺癌、腎癌、前立腺癌、乳癌などが挙げられます。その場合、もともと他の悪性腫瘍で治療中の方が、骨転移で当科にご相談に見えることも多いです。一方で、骨転移による症状をきっかけとして整形外科を受診され、そこから元の病気が判明することが多いがんとしては肺癌の他血液の腫瘍である骨髄腫や悪性リンパ腫が挙げられます。転移性腫瘍を認めるものの原発巣(原因)を確認できない、いわゆる原発不明がんのケースも稀に認めます。
治療は薬物治療のほか放射線治療、さらには病状に合わせ骨折(あるいは骨折しそうな骨)を固定する手術や転移した部分の骨切除、必要に応じて腫瘍用人工関節での再建(図2)を行います。
図2:右大腿骨近位の病的骨折 /腫瘍用人工骨頭により置換
(#3)腫瘍により骨が弱くなり、転倒や転落など、強い力がかからずに日常生活動作の中で生じてしまうような骨折を病的骨折といいます。